学部・附属学園協働での英語教育プロジェクト

( 2014年度)

プロジェクトの名称

学部・附属学園協働での英語教育プロジェクト

プロジェクトの概要  グローバル人材の育成が叫ばれ、文部科学省は中学高校における英語教育の充実と共に、小学校における英語の教科化計画を発表した。現場の教員だけではなく、教員を目指す学生にとっても、外国語活動・英語教育の研修の場はますます必要になっている。また特別支援教育の視点を加えた英語教育の在り方の研究と実践も、喫緊の課題となっている。
 教育現場への支援と、これから教員を目指す教育学部生・院生の学びの場として、報告者は島根県教育委員会・県教育センター・教育事務所の主事と連携し、22年7月に自主勉強会「小学校外国語活動の会」を立ち上げた。会を続けると共に、これまで3年間、教育学部学部長裁量経費に採択して頂き、文科省調査官の来松も実現し充実した研修会を継続することが出来た。18回を数えるこれまでの研修会には、現場の教員と本学部学生をあわせ、毎回50~60名の参加があった。
 この研修会の目指すところは「大学の持つ教育資源を現場の教員や地域に提供する」と共に、小中教員による実践発表や指導法の演習を通し、参加者(小中高大の教員、教育学部学生・院生、地域の外国語活動指導員)が学習指導要領の趣旨に沿った具体的な外国語活動の進め方を学び、さらに参加者同士の意見交換を通して各段階にふさわしい指導の在り方について学び合える場を提供することである。また県教委・県教育センターの主事と企画段階から打合せを重ねる事で、大学の中期目標にある「社会との連携」や「社会貢献」の一翼を担うとともに、参加する教育学部生・院生にとっても、小中教員の実践発表や意見交換から多くを学び、中期目標にある「高度な教育的実践力」を得る貴重な機会となっている。また、これまでの研修会で現職教員から、参加している大学生の意欲や新鮮なアイデア等からも学ぶものがあるという声もあり、大学と教育現場の創造的な協働学習の場の創出であるとも考えられる。
 これまで学部長裁量経費プロジェクト予算を活用させて頂き、現場の教員からリクエストのあった、地域に根ざした「島根からの外国語活動実践集」(2011年度)、「先生のための外国語活動英語表現CD」(2012 年度)を制作し、県下の全小学校に配布することが出来た。現場の教員からは「校内研修で利用している」等の声に加え、「教育学部学部長裁量経費プロジェクト」に感謝の意を表する声も届いている。また一昨年度からは、島根県の地理的課題でもあった、遠隔地をWebカメラで結んでの「双方向参加型研修会」を実現することが出来、隠岐の教員からは他教科でも同様な研修を望む声が非常に多く聞かれた。これらは大学の理念・目的である「地域的特性を生かした」取り組みであり、基本的目標にもある「地域課題に立脚した特色ある研究を推進し、その経過を広く社会に発信する」ものと合致すると思われる。
 さらに中期目標に掲げられている「附属学校から地域社会が求める学校教育改革プランのモデル」への提案として、附属学校園から、外国語活動・英語教育の新たな授業モデルと共に、大学生と附属学校の協働プログラムとしての、附属中学校におけるEnglish Day、附属小学校における千鳥タイムの活動における取り組みの発信にも取り組んでいる。
プロジェクトの
実施状況
1.外国語活動研修会の開催
島根大学教育学部附属学校からの発信
 

 中期目標に掲げられている「附属学校から地域社会が求める学校教育改革プランのモデル」への提案として、研修会において附属小学校の加藤君江教諭に、「児童が意欲的に取り組む活動の設定:”Hi, Friends!”をアレンジして」(11月1日)、「高学年につながる低中学年での活動:島根大学地域交流による地域拠点強化を目指した附属学園強化事業」(3月1日)と題して、単元と学年を結んだ実践を発表して頂いた。
 また附属小学校の朝の千鳥タイムで、英語教育コースの学生が、子どもの発達段階に応じた活動に考え取り組んでいる様子も、3月1日の研修会で紹介した。附属中学校英語科と英語教育コース学生との協働プロジェクトである「附属English Day」については、後述のとおり、学部紀要を通して発信を行った。

 

教育学部と島根県遠隔地をWebカメラで結ぶ双方向参加型研修会の実施
   平成25年度に初めて取り組んだ、本学部と隠岐をWebカメラで結んでの「双方向参加型研修会」を、26年度も2回目を実施した(2015年3月1日)。島根県は東西に距離があるだけでなく、隠岐の教員は特に、冬場に本土で開催される研修への参加には困難を期する。従って、Webカメラで大学と隠岐会場を結ぶことにより、双方向参加型の研修会が可能になった。
研修会当日は、回線が上手くつながりにくい箇所があったが、両会場から、この取り組みは高く評価された。同時に、県では初めての画期的な取組であるが、昨年度同様、安定した回線の確保が今後の課題となった。学校の回線を使用することが出来ないため、隠岐の島文化会館の無線回線を使用したが、研修当日は会館の回線が上手く繋がらない箇所があり、参加者の携帯を使用せざるを得ないという状況であった。今後は、安定した回線の確保が課題である。

 

  山陰両県との連携
   「地域との連携」という点から、研修会では鳥取・島根両県における取り組みを紹介した。11月1日の研修会では、パネルディスカッション「鳥取・島根の英語教育~小中高を通しての現在そして今後の取り組み」と題して、島根県教育庁教育指導課の渡部正嗣主事と、鳥取県教育委員会・英語教育推進室の内仲弘室長に、両県の、これまでと今後の取り組みについて、お話頂いた。
また3月1日の研修会では、文部科学省英語教育強化地域拠点事業に取り組む雲南市の吉田小学校・田井小学校の様子を、村尾亮子教諭に紹介して頂いた。

 

   両研修の具体的な内容は次のとおりである。
 ○ 開催日時 平成27年3月1(日)13:00~16:00
 ○ 開催場所 島根大学教育学部 391番教室
     隠岐島文化会館会議室(Webカメラによる双方向参加型研修)
 ○ プログラム                      
  (共催:全国小学校英語教育学会島根県支部)
  13:05-13:40 「小学校外国語活動と中学高校の英語教育:今後の動向」                  
 

 島根県教育庁 渡部正嗣 

  13:45-14:30 「複式学級における外国語活動:文部科学省英語教育強化地域拠点事業 雲南市の取組」                              
  雲南市立吉田小学校 村尾亮子
  14:45-15:00 「Classroom Englishに磨きをかけましょう!」                                
  島根大学教育学部 大谷 みどり
  15:00-16:00 「高学年につながる低中学年での活動:島根大学地域交流による地域拠点強化を目指した附属学園強化事業」       
  島根大学教育学部附属小学校 加藤君江
  16:00- 質疑応答と情報交換                     
  (参加者:島大会場 31名(学生10名);隠岐会場 7名)
開催日時 平成26年11月1日(土)10:00~16:00
開催場所 島根大学教育学部25番教室(主催:児童英語教育学会中四国支部)
  10:15-10:45 「小学校英語授業における文字表記の奨め」
   宮腰宏美(愛知淑徳大学)
  10:50-11:20 「『国際語としての英語』の認識を児童英語教員養成課程の学生に与える授業実践と学生の意識変化」                         
  田辺尚子(安田女子大学)
  11:25-11:55 「“Hi, Friends”準拠小学校音声指導ガイドラインの提示―アンケート調査結果とCEFR-Jを参照にして」                     
  三宅美鈴(広島国際大学)
  13:00-14:00 招待講演「英語を聞かせるということ-その意義と楽しい方法」                                   
  粕谷恭子(東京学芸大学)
  14:05-14:45 「児童が意欲的に取り組む活動の設定:“Hi, Friends!”をアレンジして」                                
  加藤君江(島根大学教育学部附属小学校)
  14:50-15:50   パネルディスカッション「鳥取・島根の英語教育~小中高を通しての現在そして今後の取り組み」
 

渡部正嗣(島根県教育庁 教育指導課指導主事)
内仲 弘(鳥取県教育委員会 英語教育推進室長)
大谷みどり(島根大学教育学部)

2.附属学校との協働プロジェクト
 

附属小学校 千鳥タイムにおける協働プロジェクト
 上述のとおり附属小学校千鳥タイムに於いて、小学校外国語活動に関心のある学生が、学年に応じた活動の取り組みを始めた。絵本の読み聞かせ・英語の歌やゲームなど、子どもたちの発達段階や授業進度に合わせながら、学生が主体的に取り組んでいる。
 また千鳥タイムでの活動に向けて、大型絵本や歌の教材等も揃えながら、大学で事前の打ち合わせや準備を進めていった。
 

附属中学校との協働プロジェクトEnglish Dayの発信
 附属中学校英語科と英語教育コースとの協働プロジェクトである「附属English Day」について、「附属学校と英語教育コース共同プロジェクトの成果と課題:附属中学校English Dauを通しての中学生と大学生の学び」として、『島根大学教育学部紀要』第48巻別冊特集号「体系的言語教育における広領域型研究と実践―教科内容研究と授業デザイン―」に、掲載・発表した。http://ir.lib.shimane-u.ac.jp/journal/E-MFE
 
 

ICT機器の活用
 ICT機器の有効な活用方法として、附属中学校と協働で、英語教育におけるiPadの使い方を模索している。一昨年度、附属中学校一年生がiPadを活用し、松江の紹介ビデオを制作したのに続き、昨年度は、島根大学の協定高であるアーカンソー大学からの留学生13名が附属中学校を訪れた際、附属中学校1年生がiPadを駆使しながら、アメリカの大学生に日本の昔話の紹介を行った。
 

研究組織
所属・職 氏名 専門分野
教育学部・准教授 ○大谷 みどり 小学校外国語活動,英語教区
附属小学校教員 加藤 君江 初等教育、外国語活動
附属中学校教員 高田 純子 中学校英語教育
附属中学校教員 須田 香織 中学校英語教育
附属中学校教員 岩崎 香織 中学校英語教育
附属学校園教員 宮崎 紀雅 特別支援教育
附属学校園ALT 片寄 Megan 小学校外国語活動・英語教育
島根県教育庁教育指導課主事 渡部 政嗣 地方教育行政、英語教育
島根県教育センター主事 鎌田 真由美 地方教育行政、英語教育
本プロジェクトにより期待される効果
(成果の公表方法を含む)
1. 附属学校園からの発信、協働プロジェクト
   附属学校園における取り組みを、大学と連携しながら、より積極的に発信する機会を増やことが出来ると考えられる。また大学生にとっては、教育実習とは異なった形で附属学校と協働プロジェクトを進めることが、貴重な学びとなっていると思われる。
 附属小学校千鳥タイムにおける取り組みについて、具体的な活動は上記のとおりであるが、大学ではまだ外国語活動の授業数が限られている中、学生にとっては子どもたちと外国語活動を通して関わることが出来る、非常に貴重な機会である。附属小学校の教員からも、千鳥タイムの学生の取り組みについて評価を頂いている。
 また附属中学校では、大学から10数名の留学生を招き、中学生に向けて全て英語でワークショップ行う「附属English Day」において、大学生はワークショップの準備段階から関わり、当日は中学生と留学生双方の支援を行うという貴重な経験を積むことが出来る。
2. 本学部学生と現場の教員による創造的な協働の場の創出
   研修会に本学部学生が参加することにより、学生は外国語活動について、現場の教員から多くの事を学ぶと同時に、教員と学生が共に学ぶ事により、新たな取り組みの検討が可能となる。また本学部学生にとっては、外国語活動や英語教育だけではなく、教師という仕事・教育現場の在り方を学ぶ貴重な機会となり得る。
3. 県教委・教育センターとの連携強化
   県教委・教育センター・教育事務所の主事と連携し本プロジェクトを進めることにより、大学と県の教育行政との連携を推進し、より具体的に実現する事が出来る。
4. 島根県教育現場における遠隔地支援教育のモデル
   Webカメラ使って遠隔地を結んでの双方向参加型研修は、比較的取り組みやすい遠隔地支援教育のモデルとなりうる。遠隔地支援教育は他県でも行われているが、本格的なテレビカメラの使用は非常に費用がかかり、また回線の確保も課題となっている。その点、Webカメラの場合は、技術・費用ともに取り組みやすい。
 また、東西に長く、隠岐の島も含む島根県において、地理的理由で学ぶ場を制限されるのは地域の損失であり、教育センターや教育委員会が実施する研修でも、島根の地理的特性が大きな課題となってきた。昨年度・今年度のWebカメラを活用した取り組みをもとに、結ぶ地域を広げることにより、県下での他教科・他分野における研修等にも大いに貢献できると考えられる。また、大学がイニシアチブをとり地域からの要請に応えると共に、地域と持続的な協力関係を築くことができると考えられる。
5. 成果の公表
   上記のとおり、研修会や紀要を通して、大学・附属・地域との連携、学部生と附属学園との協働プロジェクトの成果を公表することにより、様々な取り組みを、より一層学外に発信することが可能になっている。