第4回だんだん塾講演会

ハヤイはウマイ,記事の基本調理法

実施日: 平成24年2月23日(木)14:30~16:00
会場: 教育学部5F 多目的ホール(517)
参加者: 36名(教職員を含む)

 学生諸君からは,「自己アピール文で自分自身をきちんと書けない」とか,漠然と「レポートが書けない」といった,文章を書くことに悩んでいる声をよく耳にします。
そんな学生に自信をつけてもらいたいと企画したのが,今回のだんだん塾です。

 講師は,山陰中央新報の論説副委員長,高尾雅裕さんです。本学部の評価委員もお務めいただいており,「面接道場」でも学生を鍛えてもらっています。  
前半はドリルに挑戦してもらい,自分たちの書いた文章をふりかえりながら,後半はじっくりと話をしていただきました。その様子を紹介します。

1 制限時間内に,与えられたテーマについて書く「ドリル」
 
① 赴任した学校(小学校)で,「1ヶ月に1回,1授業を自由に使ってみてください」と言われました。「どんな使い方」をしますか。
  この設問について3分間で書き終えると,用紙を集めてシャッフルし,他人の書いた用紙が自分の所に回ってきます。そこでさらに次の設問に挑みます。次の設問は直前まで伏せられていました。
わずか3分 脳はフル回転
響くのは鉛筆の音だけ
②その学校では,風水害、津波など災害からの避難訓練を,ほとんど実施していませんでした。「何」が必要でしょうか。
 この設問についても3分間で書きます。書き終えたあと,用紙を集めてシャッフルし,他人の書いた用紙が自分の所に回ってきます。そこでさらに次の設問に挑みます。
③2つの欄の記述を読んでください。学校づくりに「あなたの考え」で提案してください。
 この設問は5分間です。「他人」の書いた意見に同意したり違和感をもったりしながら「学校づくりについての考え」を書き上げました。これでドリルは終了です。

2 高尾さんのお話(要旨)

 最初に,ドリルの「種明かし」です。前出①と②をもとに③を書くということにかかなり無理があり混乱したのではないか,意図的に混乱を生じさせて,それにどう対処するかという仕掛けでした。そのあたりをどう感じたのか,学生に問われました。「③には①と②を読んでとは書いてあるが,それらをつなげるとか趣旨を汲み取ってまとめるとは書いてなかったはず」と言われ,(そういう意図だったのか…)と気づかせてもらったところで本題へ。

(1)取材し,整理し,自分のとらえ方を確かにする「ペース」と「パーツ」

 新人新聞記者は,書いた記事がなかなかデスクに認めてもらえないのだそうです。デスクに書き直しを命じられても,そのリクエストに即座に応えられず,再取材,書き直し。この経験を積み重ねることによって,記者はその事象を伝えるために必要な要素(パーツ)と,どこに問題があるかを理解し,時間の使い方を体感しながら,記事を通して読者に伝えたいことを明確にしていくということでした。

 私たち教育の現場でも同様です。教師は,意図を明確にして授業に臨まねばなりません。「結局この先生は何が言いたいんだろう?」と子どもが首をかしげるような授業では困るのです。

 高尾さんに「どんなにすぐれた内容の文章でも,締め切りに間に合わなければ全く無価値である」と言われて,学生たちは納得していました。なぜ新聞は毎日発行できるのか。それは「締め切り」がきちんとしているから。つまり,時間を意識して書くことにより,商品として価値あるものが生み出されていく。これがペースのお話でした。

 パーツのお話は,実際の新聞社における新聞記事(記者)と編集(デスク)の役割分担を例に挙げられました。パーツは多ければ良いというものではありません。学生たちが各々書いた①と②が仮に矛盾していても,③を仕上げるのが「デスク」の腕。何を狙うか(伝えたいか)をはっきりさせて,そのためにどんなキーワードを抽出し,それらを順序立ててきちんとした話にしていくには,やはり「数」をこなしていく経験を積んで腕を磨いていくしかありません。

「ペース」を意識して書くと集中力がぐんと高まる

(2)わかりやすさの根本は「筋が通っていること」
 新聞記者は,自らの取材の中で,人の話を聞き,必要な情報を引き出します。取材力とは,「必要なものを探しながら聞く能力」をいい,これを地道に積み重ね,最終的には「自分の考えをもって伝える」ことができるようになるそうです。

 このようにしてつくられる「良い」記事は,文章の構造がきわめてシンプルになっているから,「見出しの立つ記事」になる。大事なキーワードが浮かび上がってきます。この日学生自身が書いたドリルの文章をもう一度読み返し,自分の述べたいキーワードが入っているか確かめてほしいと言われました。足りないものがあれば付け加える。不必要なものは容赦なくばっさりと取り去る。こうした取捨選択を繰り返して「編集」しながら,起承転結といった流れをつくっていけばよいのですね。

(3) 「自分の引き出し」を見つめてみよう~自己内対話のススメ~
 「話者の意図が十分くみ取れなかったら,正直に質問しても良いのですよ。」高尾さんは,何回か途中でそういうチャンスをくださいました。そして,最後には学生が「聞いてみたいこと」を直接高尾さんに投げかけました。以下Q&Aです。

①「あれも言いたい,これも言いたい」で結局自分の中で整理がつかなくなってしまう。どうしたらよいか。

→自分の中に足りないものがあるという人,逆にたくさんありすぎて整理がつかないという人,この悩みはいわば「双子」である。放っておけばよい。それしかない。

 一冊ノートをつくってほしい。自分が何を考えているのかをわかるための「引き出しノート」だ。関連づけることもできる。得意なこと,好きなことからで良い。自分の中にあるものを出力してみると,わかってくることもある。とにかく書いてみることが大事。

 「自己内対話」がオススメ。煉瓦を一個ずつ積み上げていくようなイメージで。自分だけのしっかりした土台ができる。書いておいたら,しばらく時間をおいて「寝かせておく」ことも大事。以後の変化が面白い。

ここで,文章を書くことについて,偉大な哲学者,ニーチェの言葉を引用されました。

テクニック以前の問題。説得力のある論理的な文章を書くために,いくら文章技術を学んだとしても,論理的な文章を書けるようにはならない。自分の表現や文章を改善するためには,表現や文章の技術を取り込むのではなく,自分の頭の中を改善しなければならない。

② きちんとした主張をするためには,新聞などの様々なニュースソースから専門知識を得てきちんと学んだ上で,それを整理して自分の考えをつくっていくということでよいか。

→基本的な知識や専門的知識がないと物事が考えられないということは  ない。今考えていることが,少し経つと変わってくる。そういう自分を知る  ことも大事。そうしてくると,必要な情報を見極める力がつく。情報の集め方も上手になってくる。

③パーツとペースについて。しっかり情報を集めてじっくり時間をかけて考えれば,やはり良い文章が書けるものなのか。時間配分が難しいのだが…。

→パーツが多すぎると、考えがまとまらなくなることがある。決められた時間内にいろいろ盛り込みたいのだけれどそれが書けないのであれば,そういう自分をまずは認めること。ただ、自分が見通せる範囲で勝負し、曲がりなりにも時間内に書けたものを読んでみると,意外に良いものが含まれていることが多い。書く時にじっくり時間を掛けるのではなく、普段からじっくり考えるということだと思う。

気がつくと,90分を既に超えていました。
さて,高尾さんのメッセージは,学生たちにどのように届いたか紹介します。

-----学生の感想-----

自分をモニタリングする 心理・臨床専攻3年生

 最近,自分の持っている言葉の少なさに気づき,何かしようと思っているところです。言葉の量を増やすために読書をし,気になった言葉や文章をノートに書き留めています。そのノートに言葉が増えるたびに,少しずつは良くなっているのではないかと思っていましたが,今日のお話を聞いて,自分の中から言葉を取り出す作業をあまりしてこなかったことに気づきました。
  私は「引き出し」を増やすことばかりに目を向けていて,自分の引き出しにどんなものが入っているかを確かめたことがなかったように思います。自分の引き出しを開けてみると,あるだろうと思っていたものが案外薄いものだったり,反対に思いがけない「掘り出し物」が出てきたりということがあるかもしれません。
  まずは全てを出してみようと思います。書くことで自分の言葉と対面できるので,「自己モニタリング」につながると思っています。

自分と向き合う  初等教育開発専攻2年生

 普段から書く力や話す力が不足していると感じていたので,今回の講演会を知り,これは参加すべきだと思い,申し込みました。また,読む力をつけるために,前よりも新聞を読むよう意識しており,特に明窓や論説の部分を楽しみに読んでいたので(本当です!),高尾さんの話を聞くことができ,嬉しかったです。
  私はレポートを書く時に,いろいろと考え込んで,時間がかかってしまうタイプです。しかしそれは,レポートを書く以前に,普段から何かに対してじっくり考えていないことが原因であるとわかりました。これからは高尾さんの言われた「引き出しノート」を作り,考えたことや思ったことを書き留め,自分自身と向き合う時間をしっかりつくっていきたいと思います。 誰かの意見を参考にするだけでなく,自分なりに考えた意見を大事にして,自分が何に関心があるのか,どんな考えをもっているのかなど,より深く自分を知っていきたいと思います。

 自分がどんな「引き出し」をもっているか。なかなか自分自身を見つめることは難しいのですが,高尾さんから,そのヒントや手がかりをもらいました。

 しかし,そうはいっても一朝一夕には無理です。少しずつ,こつこつと頑張りましょう。

 そして,学生のうちに一度は,新聞へ自分の考えを投稿してみてはどうでしょうか。まずは何か自らアクションを起こしてみましょう。      

(文責:福間敏之)