第3回だんだん塾講演会

タイトル:
きちんと自己表現のできる社会人になるために
実施日:
平成22年1月27日(水) 12時45分~14時30分
場所:
教育学部棟 4F 学校教育体験演習室
参加者:
35名
講師: 山陰中央新報社 論説委員 高尾 雅裕 先生
  来年度教員採用試験まで半年を切り,学生諸君は教採対策に余念がありません。また一方では就職活動を始めた学生もいます。そんな中で,意外なほど,自分の考えをきちんと自己表現することに自信のない学生が多くいます。面接試験や小論文試験で,「苦手で…」では済まされないのです。

  そんな学生に,文章のプロ中のプロ,山陰中央新報の論説委員,高尾雅裕先生をお招きし,単に小論文をどう書けばよいかというような小手先のことではなく,今後広く社会を見つめ,社会とかかわっていくにはどうしたらよいかを,じっくりと話していただきました。
  大学生が自問自答しながら,「文章を書くのってムズカシー!でもタノシー!」ことを実感した105分を紹介します。

①制限時間内に,与えられたテーマについて書く「小論文ドリル」

(ア)朝食を食べてこない小学生がいます。何が問題ですか。その解決策として何が考えられますか。

 この設問について5分間で書きます。書き終えたあと,用紙を集めてシャッフルします。そして他人が書いた用紙が自分の所に返ってきます。そこでさらに次の設問に挑みます。

たった5分間…真剣勝負です
教室には鉛筆の音だけが響き渡ります

(イ)学校,教育に無関心な親がいます。何が問題ですか。その解決策として何が考えられますか。

  この設問についても5分間で書きます。書き終えたあと,用紙を集めてシャッフルします。そして他人が書いた用紙が自分の所に返ってきます。そこでさらに次の設問に挑みます。

(ウ)アとイのそれぞれの課題をふまえて,「学校と家庭によりよい関係を築くための一つの方法」を示してください。

  この設問も5分間です。偶然自分の書いた用紙が返ってくる場合もありますが,ほとんどが「他人」の書いた考えです。「う~ん」と唸りながらも,教師の卵たちが,学校と家庭によりよい関係を築くための方法を必死に考えて書き上げました。

②「ペース」と「パーツ」のコントロールについて

 「どんなにす ぐれた内容の文章でも,締め切りに間に合わなければ全く無価値である」と言われて,学生たちはハッとしていました。時間を意識して書く,時間を制するとは どういうことか,得心したようです。そのためには,普段から「パッ!」とひらめくようなトレーニングが必要であること,自らを鍛える自分であることが求め られます。 パーツのお話は,実際の新聞社における新聞記事(記者)と編集(デスク)の役割分担を例に挙げながら,これまた「なるほど!」の連続でした。 学生たちが各々書いた(ア)と(イ)をもとに(ウ)を仕上げるのが「デスク」の腕。どんなキーワードを抽出し,それらをどのように順序立ててきちんとした 話にしていくか,これには,やはり「数」をこなしていく,経験を積んで腕を磨いていくしかありません。

③シンプルイズベスト

 新聞記者はどんな記事を書いているか。まず駆け出しの頃は「街ネタ」といって,見たまま・聞いたままを記事にしていく段階。そして慣れてくると「整理・分類しなから書く」段階。さらには記事に「評価」を入れて書くようになる段階。最終的には「自分の考えを持って述べる」段階。こういう書き方をして世間に伝えれば,このくらいの影響を与えるということがわかりながら書けるようになるそうです。

 そうしてできていく「良い」記事は,文章の構造がきわめてシンプルになっているのだそうです。そのことを念頭に置いて新聞を読むことはあまりないと思いますが,「プロ」は常にそういう意識で社会の出来事と向かい合っていることに感動させられます。学生たちも「やっぱり新聞記者はすごい」と異口同音に感想をもらしていました。

④自分の柱を持とう 「見出しの立つ記事」

 自分(の考え)に自信がないと,ついつい他人の考えを頼りにしてしまうものです。「あのさんが,あげ言っちょらいたけん…」と言い訳するのは出雲人の悪い癖かもしれません。(筆者)

 小論文試験等で設問の意図,つまり「自分に何を聞かれているのか」を鋭く読み取り,的確に自分の柱を持って書いていくことができるようにしたいですね。自分の得意ネタを持つことも大事なことです。いくら良い考えをもっていても,それが良い文章になっていないと何の意味もない。つまり文章の善し悪しと内容の善し悪しは別物である。

 様々な「書き方」を身につけて,柔軟に対応していける感性を磨いていくより他に方法はありません。新聞記者の方々は「見出しの立つ記事」を書くように努力していらっしゃるのです。

【学生の感想】

考えることの『質』を上げる心理・臨床専攻   3年生男子

 自己表現ができるようになるためには,まずは間違えても良いから「自分の頭で考える」ことが大切だと感じた。新聞スクラップや体験学修の記録など,情報の収集と整理は自分なりにやっていたが,自分の考察をノートに記入することが少なかった。自分の考えを持ち,書く作業を繰り返すよう努力したい。そうすることで,最初に頭に浮かぶことの「質」が良くなっていくはずである。

 これまで私は考えすぎたり選択に迷ったりする癖があって,本当に「ペースのコントロール」が苦手だった。その時になって時間をかけるのではなく,その前にもっと準備をし,「自分のネタの引き出し」を開けやすくしておくことが大切であると感じた。教採のためだけでなく,これから社会に出て行く者として,自分の柱となる考え方としっかり向き合いたい。

「考える人」になりたい初等教育専攻   3年生女子

 私は日頃心の中で思ったり感じたりしていることを,言葉で表現できなかったり相手に上手く伝えられなかったりすることが多い。そのために悔しい思いや歯がゆさを何度も味わってきた。しかし,今回のだんだん塾に参加してみて,文章を書く時にはキーワードを元に,構成をシンプルにした方がむしろ相手に伝わりやすいのだということを学ぶことができた。見出しを先に決めてしまってから文章を書く方法も有効であるとわかった。
  ふりかえってみると,私は,相手に伝えたいことや聞いてほしいことがたくさんあって,それを整理せずに中途半端に説明するから伝わらないのだ,ということに気づいた。

 論文や記事は最初の三行で決まるということをしばしば耳にするが,その思いつきや考えは日々の訓練,つまり「いつも考える」という行為を通して形成されるのだと気づいた。疑問や感動したことを結果としてとらえるのでなく,どうしてなのかと原因を探したり推測する姿勢が重要なのだとわかった。