日本教育大学協会研究集会 研究発表報告

(平成20年10月25日)

1.
発表題目:「基礎体験学修における取り組みの改善と学生の学び」
  代表発表者:長澤 郁夫

 第一に、基礎体験学修における取り組みの改善について、1000時間体験学修がスタートした初年度の平成16年度から平成19年度までの4年間の基礎体験領域におけるこれらの取り組みを、体験学修の量の確保、質の向上、ガイダンス機能の3つの視点から分類し表でまとめたものを紹介した。

特に、体験先の量の確保の面からは、事業所との連絡会等での連携の強化。体験学修の質向上の面からは、専任教員による事前・事後指導の実施。学生へのガイダンス面からは入門期セミナーや合同説明会等を計画的に実施し、基礎体験学修の改善を図ってきた。

次に基礎体験学修における学生の学びについて、4年間にわたる基礎体験学修でどのような力が育ったのかを、学生の自己評価からまとめたものを報告した。調査内容は、基礎体験学修でねらう6つの力(子ども理解、人間関係力、社会の一員としての自覚、企画力、指導力、学校理解)と有意義感の項目である。それぞれの項目に対し質問を設け、5段階評価(5が最も高い評価)で行った。

4・5評価の割合は、ほとんどが全般的に学年を経るごとに上昇する傾向であり、学生の自己評価からは、基礎体験学修でねらう6つの力がそれぞれに育ちつつあることがわかる。特に顕著な伸びを示しているのが、子ども理解①~③と人間関係力①~③である。子ども達や地域のいろいろな方々とふれあう体験を通して学んできた基礎体験学修の成果が、ここに表れていると考えられる。また、3年後期の実習セメスター後の学校理解の伸びも著しかった。

一方、基礎体験活動に対する有意義感の変化であるが、2年時が58.3%、3年時が79.0%、4年時は81.3%と、年々増加している。特に、実習セメスターでの学外教育体験活動をしたあとの3年時の増加が際だっていた。

今後の課題としては、基礎体験の学びの成果や検証を学生の出口調査等から進めていくことや、基礎体験の質的向上や、基礎体験と専攻別体験との連携をいっそう充実させることなどがあげられる。
発表後の質疑では、体験先の事業所の開拓をどのようにされたかについて質問があった。

2.
発表題目:「1000時間体験学修における実習セメスターの取り組みと成果」
  代表発表者:青山 巧

 「体験活動時間数の経年変化」「卒業後の進路状況」「基礎体験活動記録票」「3年時12月に実施した実習セメスターについてのアンケート」「附属学校指導教員による聞き取り」をもとに、卒業後の進路別に、1000時間体験学修にどのように取り組んでいたのか、その中でも特に、教員になった学生の実習セメスターで活動に焦点を当て検証をしたことについて発表した。教員になった学生とそうでない学生を比較した場合、教員になった学生が体験時間を多く積み重ねている。

また、正規採用の学生と臨時採用の学生では、1~3年までの時間数は差がなく、4年での活動はむしろ臨時採用の学生が上回っていた。しかし、3年時の体験内容別(実習セメスターでの学校での活動、実習セメスター以外の学校での活動、学校以外の活動)で細かく分析すると、正規採用の学生が実習セメスターでの学校での活動を最も多く積み重ねていた。

正規採用者は教育実習Ⅳでの学びと公立小中学校での学びを往還させ、授業づくり、子ども理解、学校理解、現場教員の日常の姿などにふれることで、教員という仕事を多面的にとらえ、理解をより一層高めていったようだ。このことは、教育実習の班による違いがないことも分かった。

今後は、3領域での学びを総合的に分析・評価してくために、卒業生と管理職に対し、アンケート等を用いた調査を行いたい。質疑では、附属学校の教員との連携をより深め、教育実習と実習セメスターの往還による教師力の向上をさらに高めてほしいという意見があった。

3.
発表題目:「1000時間体験学修」における体系的な学校教育実習の再構築(7)-「学校教育実習VI」の構想と実際-
  代表発表者:川路 澄人・廣兼 志保

 本研究は、5年目を迎える「1000時間体験学修」の「学校教育体験領域」の総体について検証するものである。今回はその中でも4年次に体験する「学校教育実習VI」の位置づけと内容、学生の振り返りから検証される本実習の評価と課題について発表を行った。

1)「学校教育実習Ⅵ」の目的と内容:教育実習の総まとめと位置づけている。深化型・副免型いずれの場合も、これまでに経験してきた実習や大学で学んできたことを基盤とし、教育実践力のさらなる育成を重点課題としている。教科または保育に関する教育実践力としては、単独での授業または保育計画の立案と実施ができること、学級経営に関する教育実践力としては、学級担任の業務の一部ができることをめざしている。

2)学校教育実習Ⅵの今後の課題:
①実習時間・時期の問題
3年後期の「実習V」、4年前期の「実習VI」(各1週間)が副免実習としての教育実習(2単位)を二分した形で実施している。連続して行うことは、附属学校園と大学の年間スケジュールの過密さや、4年間にわたる継続的、発展的な教育実習という構想を勘案すると困難である。しかし附属学校園から期間が短すぎるという意見があげられており、実習期間中に1時間授業をすることがぎりぎりという現状である。

②事前指導・教科指導の問題
「実習VI」は4年次前期の5.6月に実施されているが、4月中にはオリエンテーションを実施し、学級担任や教科担任との事前打ち合わせのコーディネートのみ行っている。4年次前期は就職活動の時期でもあり、実習期の1週間でさえ就活で欠席せざるを得ない学生も多いため一斉に事前指導の時間をとることが難しい状況である。本学部では副専攻制として16単位を必修化し、その単位で副免取得を指導しているため、学部170名のほぼ全員が副免取得を前提としている。半必修化されたことが影響してか、学生の実習への意欲低下、教科専門の内容への不安が指摘されている。

③学生・附属学校園の教員・大学教員の負担
上述のように4年生にとって就職活動などで忙しい時期に実習で1週間拘束されることは、教職を希望しない学生には授業準備を含め負担が大きい。また附属学校園の教員にとっては、「実習I~VI」が毎年実施される状況となり、毎月のように学年の異なる大学生を受け入れてもらっている。指導する内容・実習目的も混乱し、1週間しかいない、毎週入れ替わる学生の顔を覚え、実習態度・内容を評価することが難しいという意見が寄せられている。

学部教員では学校教育体験領域専門部会が学生の担任となり直接的な指導を行っているが、1人の教員が1~4年次生までの全ての実習の運営と指導を同時に担わなくてはならない現状にある。

これらの状況をふまえつつ、実習をとりまく環境や実習の内容を整え、実習をより良く継続していくことが今後の課題である。

4.
発表題目:「1000時間体験学修」における体系的な学校教育実習の再構築(8)「学校教育実習I~VI」の教育効果と学生の教職志向の経年変化-
  代表発表者:岩田 耕司

 平成17年度入学生(現4回生)に対して行った意識調査の結果から、4年間にわたる学校教育実習の教育効果について、主に次の3つの側面から検討した。1)学校教育実習を通して、学生の教職志向はどのように育まれたか(あるいは育て損なったのか)、2)学校教育実習は、学生のどのような力を育てたのか(あるいは育て損なったのか)、3)教育実習の最終プログラムとしての学校教育実習VIの成果と課題。

1.教職志向の経年変化とその要因
  学生の教職志向の分析から、主に次のことが見出された。
(1)「教職になりたいか否か」、「教員採用試験を受験するかどうか」、「教職に魅力を感じるかどうか」という教職に対する3つの志向は、それぞれ異なる傾向を示していたこと。

(2)教職に対する魅力は、学年を経るごとに漸次増加傾向にあるものの、それが必ずしも他の志向へ結びついていたわけではないこと。

(3)員採用試験の受験意欲に関し、初等系と中等系の学生の傾向は大きく異なり、中等系の学生は漸次減少傾向のまま推移していたこと。

(4)教師になりたいと思うかどうかということを左右する一つの大きな要因に、教壇実習での体験が挙げられたこと。特に、子どもとの関わりが大きな影響を及ぼしている可能性があること。

2.学校教育実習の成果と課題
  教育実習の最終プログラムである学校教育実習VIのアンケート結果の分析からは、主に次のことが明かとなった。

(1)異校種で実習を行った「副免型」の学生は、実習後、全体的に教職志向を高める学生が多かったものの、同校種で実習を行った「深化型」では、それまで中間的な志向を示していた学生が志向を下げる傾向にあったこと。

(2)異校種実習の意義は、特に中等系の学生にとって大きいこと。

(3)学生の授業を観察する力や、授業協議会での取り組みに関し、過去のアンケート調査における自己評価との比較によって、学校教育実習プログラムにおける一定の教育効果が認められたものの、学校教育実習VIに関しては、一週間という実習期間の短さや、副専攻教科の内容理解に関する不安など、幾つか改善されるべき課題が残されていること。

 継続的なデータを蓄積するとともに、アンケート項目を調整し、教育実習プログラムのさらなる検証・改善を進めることが、残された重要な課題である。

5.
一連3発表題目:「「1000時間体験学修」における臨床・カウンセリング体験領域の授業実践(3)~プログラム・オーガニゼーションと効果測定の再検討~(4)効果測定のための行動チェック目録の作成と実施~(5)アンケートの質的分析による効果測定の試み
  発表者:足立 智昭・岩崎 貴雄・三鴨 朋子

 島根大学教育学部で実施している「1000時間体験学修」における「臨床・カウンセリング体験領域」については、平成18年に授業実践内容とカウンセリング・マインド育成の効果や学生の変化に関して発表した。その際に、またその後、いくつかの発展的な以下の課題を我々は意識するようになった。

①現在の学生気質を鑑み、知識やスキルの修得と同時に、「体験」を通した自己理解や他者理解を基盤とした自己成長への取り組みの場とすること。

②「体験」自体が、日常生活や学生生活、また他の2領域(基礎体験領域・学校体験領域)に汎化し、「体験」の落とし込みが深まること。

③これまでのプログラムへの学生の評価をもとに、提供されたプログラムによる学生の問題(目標)意識とその変化・達成度合いを増幅するようなプログラム構成を再検討すること。

④③の目標と変化を多面的に捉えることができるような測定法やツールを開発すること。

そこで授業実践(3)では、課題②への対応として、感想レポートや振り返りセッションでの発問の仕方を工夫したことを、課題③については講師の観点(教育効果・学生の関心など)と学生の観点(役立ち度・課題意識・達成度)を加味して、各エクササイズの特徴を再検討したうえで厳選し、エクササイズのストーリー化と重層化を図ったことなどを発表した。

次に授業実践(4)では、課題④の一環として、目標行動の変化量を測定するための行動チェック目録を項目分析・因子分析などの統計的手法によって作成し、その結果を報告した。また変化測定のツールとしてバウムテストも実施した。行動チェック目録による学生の主観的変化は、「自己表現・自己尊重」「他者配慮」「漸進的積極性」「受容・傾聴」「課題意識」のいずれの指標も有意な上昇を認め、バウムテストによる学生の内的変化は「成熟度」の指標が有意な上昇を示した。

そして授業実践(5)では、課題①を検証するために、学生のアンケートへの自由記述を修正版グラウンデット・セオリー・アプローチによって、「授業を実践の場に活かすプロセス」の概念化を試みた。

会場からは、「学生の変化が授業実践によるものか」という、より精緻な比較検討する為のコントロール群設定についての質問や、卒業生への教育効果の実証が必要とのコメントも頂いた。