第4回だんだん塾講演会

実施日:
平成23年1月19日(水) 12時45分~14時30分
場所:
教育学部棟 5F 多目的ホール
参加者:
36名(教職員を含む)
講師:

山陰中央新報社 論説副委員長 高尾 雅裕 先生

 来年度教員採用試験まで半年を切り,学生諸君は教職を含めた採用試験に備えて,勉強や準備に余念がありません。厳しい就職状況が伝えられる中で,就職活動を始めた学生もいます。そんな中で,「自己アピール文はどのように書けばよいか」とか,「自分の長所を簡潔に記述する」というようなことに対して自信のない学生がいます。面接試験や小論文試験で,「苦手で…」では済まされないのですが…。

 そんな学生に自信をつけてもらいたいと企画したのが,今回のだんだん塾です。講師は,山陰中央新報の論説副委員長,高尾雅裕さんです。本学部の評価委員もお務めいただいており,「面接道場」でも,学生を鍛えてもらっています。  

 昨年度同様,単に小論文をどう書けばよいかというような話ではなく,今後広く社会を見つめていくには,社会とかかわっていくにはどうしたらよいかを,じっくりと話していただきました。大学生が自問自答しながら,「事実を客観的に構成する」ことを実感した90分を紹介します。

①制限時間内に,与えられたテーマについて書く「小論文ドリル」

(ア)児童福祉施設などにランドセルを寄付する,自称・タイガーマスクについて,考えるところがあれば書いてください。

  この設問について5分間で書き終えると,用紙を集めてシャッフルし,他人の書いた用紙が自分の所に返ってきます。そこでさらに次の設問に挑みます。

たった5分間の真剣勝負「脳フル回転」
会場には鉛筆の音だけが静かに響く

(イ)自分の体験をもとに,「学校と地域社会の関わり」について,どう考えているか書いてください。

  この設問についても5分間で書きます。書き終えたあと,用紙を集めてシャッフルし,他人の書いた用紙が自分の所に返ってきます。そこでさらに次の設問に挑みます。

(ウ)アとイの回答欄の記述を読んだ上で,あなたが考える「教育に対して社会が果たす役割」について書いてください

  この設問も5分間です。偶然自分の書いた用紙が返ってくる場合もありますが,ほとんどが「他人」の書いた考えです。他人の意見に同意したり違和感をもったりしながら「社会が果たす役割」を書き上げました。
②「ペース」と「パーツ」のコントロールについて
  高尾さんの話です。「新聞社の新人記者は,なかなか記事が書けない。もう少し正確に言うと,読者の満足のいく記事にならない。デスクが『書き直し』を命じても,そのリクエストに応えられない。結局はその記事を通して読者に何を伝えたいのか,記事を書く本人がわかっていない」。

 教育実習でも同様のことがなかったでしょうか。授業をしなければならないのに,その授業で何をねらって何をしたいのか,授業者本人がわかってないということ。そういうことは,指導案にも表れてしまいますね。

 「どんなにすぐれた内容の文章でも,締め切りに間に合わなければ全く無価値である」と言われて,学生たちはハッとしていました。時間を意識して書くことにより,より明確な文章であることが求められるのです。そのために,普段からものを考える癖をつけること,ものの考え方をトレーニングすること,自らを鍛えることが求められる,高尾先生はそんなふうに語られました。

 パーツのお話は,実際の新聞社における新聞記事(記者)と編集(デスク)の役割分担を例に挙げながら,これまた「なるほど!」の連続でした。学生たちが各々書いた(ア)と(イ)をもとに(ウ)を仕上げるのが「デスク」の腕。どんなキーワードを抽出し,それらを順序立ててきちんとした話にしていくには,やはり「数」をこなしていく,経験を積んで腕を磨いていくしかありません。

「ペース」を意識して書くと集中力がぐんと高まる
③ 「客観的に構成する」と,結果として「シンプル」になる

 新聞製作には,「編集のセンス」が求められる。私たち教職に携わる者にも全く同様のことが言えます。

 新聞報道では,まず「第一報」これが骨格になります。いつ,どこで,誰が,何をしたのか報じられます。そして次が「一般記事」すなわちその事件や事故の周辺で何が起きているか,影響や識者のコメントが掲載されます。最後が「解説記事」。なぜ事件や事故が起きたのか,その背景にあるものは何なのか,深く掘り下げて報道されます。新聞記者は,自らの取材の中で,人の話を聞き,必要な情報を引き出します。取材力とは,必要なものを探しながら聞く能力をいうのだそうです。これを地道に積み重ね,最終的には「自分の考えを持って伝える」ことができるようになるそうです。

 このようにしてつくられる「良い」記事は,文章の構造がきわめてシンプルになっているのだそうです。この日学生がドリルで書いた文章を,もう一度読み返し,自分の述べたいキーワードが入っているか確かめてみる。足りないものがあれば付け加える。不必要なものは取り去る。こうした取捨選択が「編集」なのですね。

④「見出しの立つ記事」にするために~自己評価のススメ~

 今回のドリル学習でわかったことは,「人の考えをつなげて自己主張することは難しい」ということです。つじつまが合わなくなるわけです。わかったような振りをしていることも,実は罪深いことなのかもしれません。

 「話者の意図が十分くみ取れなかったら,正直に質問しても良いのですよ。」高尾さんは,何回かそういうチャンスをくださいましたが,今回の学生には,その「勇気」がなかったようです。自分(の考え)に自信がなかったのかも…。

 まずは興味のあることから書いてみること,次にそれに関連するもの,というように,イモヅル式に広げていけば良い。そして,その書いた文章に対する「自己評価」のポイントを挙げてくださいました。

①自分の主張したいキーワードが盛り込まれ,シンプルな論理構造になっているか。
②文章全体が,読む側の視点になっているか。(求められた題意をとらえているか)
③もう一段踏み込む「自分なりの分析や提案」がきちんと書かれているか。

 これを繰り返し行うことによって,自分と向き合い,自分の見方・考え方が少しずつ成長していくということです。やってみるしかありません。

 さて,高尾さんのメッセージは,学生たちにどのように届いたでしょうか。紹介します。

―学生の感想-

主観の暴走を押さえる 初等教育開発 3年生女子学生

 今までは,何となく書くことやまとめることが苦手」というように,自分の課題が漠然としていたが,今回の講演を聴き,自分の課題とその克服方法がわかった。

 最後の質問コーナーで,私と同じことを苦手としている学生がいたことに気づいた。主観が暴走してしまうということだ。一度そう考えてしまうと,他者の考えや客観的な意見を聞いても,自分の考えから抜け出せないことが多々ある。

 高尾さんからアドバイスされた「自分の考えを練り直すトレーニング」をしたい。もっていてよい主観なのか,暴走した主観なのかを見極めることができるよう,多くの人や本と出会って,様々な考えを交えていく中で,自分の主張を鍛えていきたいと考える。

「筆の立つ人」になるために  数理基礎教育専攻 3年生女子学生

 「自分と向き合う」。今回の講演会でこの言葉が一番印象に残った。今までも,そしてこれからも,私たちはあらゆる場面で何かを書く。これまでの三年間の大学生活を振り返ってみても,レポートであったり,振り返りや感想であったりと,実に様々な種類のものを書いた。

 その中でも,書きやすいと感じたものとそうでないものがあった。それは自分が興味のあるなしに起因すると思っていたが,それだけではないことが今日わかった。

 書く前に,自分の中で書きたいことが整理され,自分のものになっているかどうか,それが大切なのだ。どんな授業や体験活動でも,自分の中でしっかりと整理し,向き合うことで初めて「自分の財産になる」ということを知った。

 大学生のうちにもっと引き出しを増やしたいと思っている。そのために様々な経験を積みたいと考えている。注意したいのは,ただやみくもに行動するだけでなく,もっと自分と向き合い,出来事を整理していきたいということだ。そうすることによって,一つの出来事から引き出しを複数つくることができるような力を身につけたい。

 書くという作業は難しい。しかし,一度落ち着いて心の中を整理し,それを形にすることによって,少しずつ自分の文章は変わると思う。「筆の立つ人」になるためにも,自分と向き合える人間になりたい。

「自己分析」から始めてみよう初等教育専攻 3年生男子学生

 今回のだんだん塾に参加しようと考えたのは,自分に書く力,特に他者に自らのアピールポイントを伝える文章を書く力が乏しいと考えたからです。

 講義内容は参加する前に想像していたことと少し異なっていました。タイトル通り「書く力を鍛える」ためのコツ,ノウハウを伝授してもらえるのだと考えていたのですが,お話を聞く中で,こうした技術面はトレーニングによって力をつけることが可能であると知りました。

 文章を客観的に構成するためには,まず「いつ」「どこで」「だれが」などの基本情報を押さえてキーワードをつなげること。次に読む相手の視点に立ち,相手の求めに応じる文章になっているかを意識し,さらに自分の考え,分析に基づく意見を書き添えること,こうした意識的な訓練によるものと理解しました。しかし,最も重要なことは,書く以前に「自分の書きたいことを自覚していること,自分への自信」をもっていることであると教わりました。

(中略)

 文章を書くのは自分自身です。今まで何となく感じていたことですが,「自分は何が書きたいのか」と自らに問うとき,その明確な答えを得るには「自己分析」が欠かせないと,今日確信しました。まず第一歩として,自己分析のために,「自分の引き出し」をつくるノートを作成してみようと考えています。

マニュアル通りにやれば何とかなる仕事もありますが,私たちが携わる仕事は基本的に「創造」です。

 子どもたちの限りない未来を支え,可能性を伸ばしていくためにも,まずは「引き出し」をたくさん持とうじゃありませんか。その懐の広さと深さが,教師として,あるいは社会人としての大きな味方であり武器になると思います。

一朝一夕には無理です。少しずつ,こつこつと頑張りましょう。皆さんの健闘を祈ります。

(文責:福間敏之)