大学と島根遠隔地を結ぶ『双方向参加型外国語活動研修会』の取り組み

( 2013年度)

プロジェクトの名称 大学と島根遠隔地を結ぶ『双方向参加型外国語活動研修会』の取り組み
プロジェクトの概要

 グローバル人材の育成が叫ばれ、小学校でも外国語活動の必修化が始まり4年目を迎えるが、外国語活動は他教科に比べまだ始まったばかりの感がある。教育現場への支援とこれから教員を目指す教育学部生・院生の学びの場として、島根県教育委員会・県教育センター・教育事務所の主事と連携し、22年7月に自主勉強会「小学校外国語活動の会」を立ち上げ3年半となる。教育学部学部長裁量経費プロジェクトに採択して頂いたこともあり、文科省調査官の来松も実現し充実した研修会を継続することが出来ている。24年度末までで15回を数えた研修会には毎回現場の教員と学生あわせ50~60名の参加があるが、隠岐や益田などの遠隔地からは熱心な教員の参加があるものの、松江から遠いため特に隠岐は天候に左右され、時間的にも財政的にも参加が困難な場合が多いことがこの3年間で明らかになった。従って、松江キャンパスと島根の遠隔地を近年安価になってきたWebカメラで結び、島根大学と双方向で研修会に参加できるシステムを構築することにより遠隔地の教員も参加することが出来、またこれまで県による研修でも課題になってきた「島根の地理的課題」を克服できる先駆的研修会に取り組んだ。
 また英語教育において、コミュニカティブなアプローチと発信型の授業が重視される中、ICT機器を使いまた大学と附属学校との連携を活かした発信重視の授業に取り組んだ。

プロジェクトの
実施状況

1)小学校外国語活動研修会の開催

○平成25年度第1回研修会

  

 日時:5月25日(土)13:00~16:30
 場所:島根大学教育学部 35番教室
 後援:島根県教育委員会
 内容:
 13:00~15:00 演習1
  Hi, friends! 1  Lesson 3・4の指導の実際
  Hi, friends! 2  Lesson 3・4の指導の実際
 15:15~15:45 演習2
  『先生のための外国語活動英語表現CD』を使ってのクラスルームイングリッシュの練習
 昨年度、学部長裁量経費プロジェクトで作成し各学校に配布した
「先生のための外国語活動英語表現CD」を活用し,外国語活動の授業で使う英語表現の練習

 15:45~16:30 情報交換


 
 小学校教員を中心に約40名の参加があり、今回はそのうち11名が本学の学生であった。これから取り組む単元について、グループごとに本学の学生も現職の教員に混じって意見を出し合いながら、授業のめあてや活動について一緒に考えた。学生からは、単元計画を立てるにあたり現場の先生方の意見を直接聞くことが出来、大変勉強になったという声が多く寄せられた。


○H25年度第2回研修会

 日時:8月25日(日)13:00~16:30
 場所:島根大学教育学部 212番教室
 後援:島根県教育委員会
 内容:
 13:00~13:30 講義 
 「島根県教育センター主管【小学校外国語活動教育講座】報告」
   報告者:島根県教育センター 指導主事 鎌田 真由美
   7月に行われた標題の講座での文部科学省直山木綿子教科
   調査官の講義・演習の内容についての報告と解説
 13:30~15:30 取組例紹介及び演習
  “ Hi, friends ! 1・2 ”Lesson 5・6の指導の実際」
   提案者:大田市立久手小学校  教諭 梶谷 修一郎
   Hi friends!で2学期に取り扱う単元の指導の在り方について、具体的な実践の紹介を参考に参加者全員で協議を行った。
 15:45~16:30 情報交換

 

○H25年度第3回研修会  ※Webカメラによる双方向参加型研修

 日時:2月15日(土)13:00~16:00
 場所:島根大学教育学部 390番教室
      隠岐島文化会館 会議室
 後援:島根県教育委員会
 内容:
 13:00~13:45 報告 
 「第10回 全国小学校英語活動実践研究大会 報告」
    報告者:島根大学教育学部 大谷みどり
  平成26年2月7・8日に福岡で開催された標記大会について、
文部科学省直山木綿子教科調査官の講演内容も含めての報告と、25年12月に文科省から発表された「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」についての解説
 13:45~14:30 報告及び演習 
「平成25年度 小学校における英語活動等国際理解活動指導者養成研修」報告及び演習
  発表者:隠岐の島町立有木小学校 教諭 濱田 貴士
  全国研修会に参加さした濱田教諭が、具体的に研修内容を紹介
 14:45~16:00
  隠岐と松江間での情報交換
   隠岐会場と松江会場から、参加した教員の学校での取り組みの紹介後、質疑応答を行った。

 

 第3回研修会は今年度、かつこれまでの自主研修会では初めての、松江と遠隔地をWebカメラで結んでの双方向参加型の研修に取り組んだ。上記の概要の所で記したように、これまで県による研修でも課題になってきた「島根の地理的課題」を克服できる先駆的研修会となった。今回Webカメラで結ぶ研修については、島根県教育委員会・教育センターの主事から島根県の状況を聞き、3時間にわたり動画の回線を使うということとセキュリティの観点から、学校現場に直接回線をつなぐことは出来ないという事が判明した。従って隠岐の会場は、学校ではなく隠岐島文化会館を使用した。また当初の計画では、隠岐の他に益田・浜田・大田も結ぶ予定であったが、会場確保の難しさと、初めての試みとして、まず第一回目はニーズが最も高い隠岐と結び、3時間の双方向研修の成功が確認されれば他会場も増やしていくこととした。
 隠岐と結ぶ準備段階では、島根県教育委員会の渡部主事がICT機器にたけておられることから、事前に実際にWebカメラを使い、島大と隠岐を結んで複数回調整を行った。しかしながら当日は、隠岐文化会館の回線がうまくつながらず、参加教員の携帯電話のテザリングを利用しての研修となったが、3時間の双方向参加型の研修は、回線上は大きな問題はなく実施することが出来た。

 

島大と隠岐会場の教員が、質問や意見交換をしている様子
 


この初めての「双方向参加型研修」について、参加した教員からは次のような感想が寄せられた。

 

【隠岐会場に参加した教員から】
隠岐にいながら島根大学での講義が聴けたり、島根大学の先生方へ提案発表が出来る画期的なシステムだと思いました。
非常に有効なものだと感じました。ただ受信するだけではなく、こちら側からも発信が出来、なおかつ他の人も参加出来るというのは隠岐の先生方にとっては主体的に参加出来るものだと思いました。
離れた地域・場所で同時に研修を行うことが出来、とてもよいと思いました。これから研修などの幅が拡がっていく感じがしました。
隠岐で働いていると、研修会に参加したくても前後泊の事を考えるとなかなか出にくいです。しかしテレビカメラをつないでの研修だと宿泊も考えずに参加出来るので、とてもよいと思いました。
テレビカメラを使っての研修会という先進的な取り組みでした。これからもこのような研修を増やして頂いて、研修により参加しやすくなることを願っています。
隠岐という立地なので研修機会の確保にスカイプは有効だと感じました。本会場での手間が掛かると思いますが、隠岐側としてはとても嬉しいです。双方向にすることで、意見を述べる機会もあってよかったと思うので、今後もこのような機会を期待しています。
テレビカメラにつなぐことで他地域の人との交流にもなるので、自分たちの地域ではやっていない取り組みを知ることが出来てよかった。
初めて見た取り組みで、とてもよいと思いました。行きたい研修があっても物理的に難しい地域にとって画期的だと感じました。他の研修でも活用出来たらと思います。
島根県の地理的なハンデを克服する効果的かつ先進的な取り組みだったと思う。

どんどんテレビカメラを活用した研修を取り入れていってもいいと思った
ものすごく有効だと思いました。是非続けて行って下さい。
遠方からの参加が可能になり、とても有難かったです。
【島大会場に参加した教員から】
ぜひ松江・隠岐・西部でつながるといいですね。画面も見やすく、とても分かりやすかったです。すごい!と思いました。
隠岐の参加者と距離を感じることなく話が出来て、大変良い取り組みだと思いました。
Skype研修はとてもいいと思います。島根は移動が大変なので。
Skypeを用いた複数会場での研修の実施は、英語の授業やセンターでの研修にも活かせると改めて思いました。
松江と隠岐をつないだ研修会と言うことで、これからもこういった会が盛んになるといいなと思いました。
【今後の課題等についての指摘】
会の当日は電波状況が不安定になる事もありましたが、電波が安定した条件下であればスムーズな講義が可能だと思います。何より外国語活動に熱心に携わっておられる先生方の話が聞けることがすごいです。
今後回数を重ね、課題や改善策を探っていきたい。
島根は広いので、カメラで結ぶのは面白い工夫だと思う反面、カメラを通しての交流には限界があるとも思います。それぞれの会場で会を持ってもいいかなと思います。会場と会場は結ばなくても、参加者の気持ちはつながるのでは、と思います。
西部や南部に比べると近距離ではありますが、島大出雲キャンパスとも繋げると、出雲市内の先生方も出席しやすいかもしれないと思いました。

 

 このように、上記の参加教員からの感想からも伺えるように、島根県初の、Webカメラを用いての教員を対象とした双方向参加型研修は、大きな成果と、地理的課題が大きい島根県における研修の今後の在り方に、ひとつの提案が出来たと思われる。

 

2)ICT機器を活用した、大学と附属学校園との連携
 英語教育において、コミュ二カティブなアプローチと発信型の授業が重視される中、大学と附属でiPadを活用した授業に取り組んだ。特に附属中学校1年生の授業では、アメリカのペンパルに松江のよさを伝えるプロジェクトとして、附属中学生がグループごとに紹介したい場所へ実際に出かけ、iPadを使って紹介ビデオを作成し、アメリカのペンパルに送ると言うプロジェクトに取り組んだ。今回の取り組みを参考に、今後iPadを使ってのプロジェクトを増やす予定である。

 

松江城を紹介するグループ
京店のハートの石畳について紹介を行ったグループ。
生徒曰く、ハートの石畳を踏むといい人に巡り会える、ということで、一人が女の子役、もう一人が男の子役、さらにもう一人がその説明をしている様子です。
 
3)島根県小学校教員を対象としたアンケート調査の分析と概要配布
 平成24年度 学部長裁量経費プロジェクトに採択され作成した「先生
のための外国語活動英語表現CD」を県下の全小学校に配布する際に依頼したアンケートの分析を行い、概要を再び全小学校に郵送した。 
研究組織
所属・職 氏名 専門分野 
教育学部・准教授 ○大谷 みどり 小学校外国語活動、異文化コミュニケーション
附属小学校教員 加藤 君江 初等教育、外国語活動
附属中学校教員 高田 純子 中学校英語教育
附属中学校教員 須田 香織 中学校英語教育
附属学校外国語指導助手 Megan Katayose 小学校外国語活動、英語教育
島根県教育委員会 渡部 政嗣 地方教育行政、英語教育
義務教育課主事
島根県教育センター主事
鎌田 真由美 地方教育行政、英語教育
奥出雲町立
亀嵩小学校・教頭
(元県教委主事)
大谷 淳司 初等教育
本プロジェクトにより期待される効果
(成果の公表方法を含む)
1. 県教委・教育センターとの連携強化
 県教委・教育センター・教育事務所の主事と連携し本プロジェクトを進めることにより、大学と県の教育行政との連携をより具体的に実現する事が出来る。
2. 島根県教育現場における遠隔地支援教育のモデル
 Web/テレビカメラ使っての遠隔地双方向参加型研修・支援教育は他県では行われているが、島根県の教員対象には初の試みであった。地理的理由で学ぶ場を制限されるのは地域の損失であり、教育センターや教育委員会が実施する研修でも島根の地理的特性が大きな課題となってきた。従って今回の取り組みの成功により、県下での他教科・他分野における研修等にも大いに貢献できると考えられる。また、大学がイニシアチブをとり地域からの要請に応えると共に、地域と持続的な協力関係を築くことができると考えられる。
3. 学生の学びの場の充実
 本学部の学生にとっては、現場の教員の実践発表を聞き学ぶだけではなく現場の教員と一緒に考え意見を交わすことにより、小学校外国語活動についてだけではなく、教師という仕事・教育現場の在り方を学ぶ貴重な機会となる。
4. グローバル人材育成の支援
 今回のWebカメラを使っての遠隔地双方向参加型研修の成功に伴い、島根県下の教育現場をつなぐだけではなく、文科省が重視しているグローバル人材の育成に関連し、海外の学校と結び、子ども達が外国の子ども達と学んだ英語を駆使し実際に意見交換を行う事が可能になってきた。
5. 外国語活動・英語教育の充実
 日本の英語教育が大きく動き始めており、中学高校の英語教育だけではなく、小学校外国語活動の教科化や中学年への移行等が検討され始めている。研修会の継続は、研修に参加した現場の教員・学生には、小学校外国語活動の在り方とその実践方法を学ぶ貴重な機会となる。小学校から子どもを育てる教員の研修機会の充実は、県における若い人材の育成へと繋がる。
6. 大学と附属学校園との連携強化とICT機器の活用
 英語教育における大学と附属学校園との連携は、例えば4年前から取り組んでいる附属English Dayにおいて、島根大学の留学生が附属中学校に出かけ英語でワークショップを行い、英語教育の学生がワークショップの準備と留学生と中学生の交流を支援している。昨年度は、留学生が附属小学校にも出かけ、外国語活動の研究会で子ども達が留学生に松江のよさを紹介した。さらにICT機器を活用し、中学生が松江のよさを海外に向けて発信するというプロジェクトを試みた。
今後ますます発信型の英語教育が重視されるにつれ、ICT機器の活用は必須となると共に、大学の持つ教育資源を活用し、大学と附属の英語の授業のさらなる充実が期待できる。
7.
成果の公表
 県内の小学校教員を対象にしたアンケート調査の結果と概要は、全小学校に郵送し公表した。またアンケート調査結果の詳細な分析と、Webカメラを使った双方向参加型研修会の取り組みについては、今後学会等で大学と行政・現場との協同プロジェクト、地域に根ざした取り組みとして成果を発表する予定である。