子どもの心をめぐる地域の教育課題への臨床心理学的支援-「教育臨床研究会」による教育現場との連携-

( 2011年度)

プロジェクトの名称 子どもの心をめぐる地域の教育課題への臨床心理学的支援
-「教育臨床研究会」による教育現場との連携 - 
プロジェクトの概要 いじめ,不登校,不適応,非行,ひきこもり,発達障害,児童虐待…など,子どもの心をめぐる深刻な教育問題・課題はますます多様化・複雑化・長期化する傾向にある。山陰両県の学校教育現場では,子どもへの専門的支援,保護者支援,地域社会との連携など広範な対応を求められており,教師集団は個々の専門性に大きな不安を抱えながら日々追われている現状がある。
島根大学教育学部および教育学研究科は,教員養成機能の特段の強化・充実を図る方向で改組を進める中,こうした地域の教育臨床問題への支援機能を充実させるため,平成13年度より「心理臨床・教育相談室」(現「心理・発達臨床相談室」)を開設し,子どもや保護者への専門的な心理臨床相談,学校現場へのコンサルテーションを行ってきた。また大学院教育学研究科臨床心理学分野では臨床心理士養成を行い,修了者の多くは島根・鳥取両県の学校教育現場のスクールカウンセラーとなっている。

 本プロジェクトは,学部・研究科が構築してきた「臨床心理学」を核とする教育資源を,地域社会(学校教育現場)に開放しながら,同時に高度専門職業人としての大学院における教員養成(現職再教育)および臨床心理士養成の充実を図ることを目的に,平成17年度より取り組んでいる任意参加の研究会(教育臨床研究会)を核とする事業である。現場の教員やスクールカウンセラーから任意で事例を提供してもらい,これについて参加者全員で協議し,最後に当日のコメンテータ(臨床心理士有資格教員)が総括的コメントを加えるという形で実施してきた。原則として月に1回,19時から21時という現職教員の参加しやすい時間帯に開催した。遅い時間帯であることや,開催側の都合で月曜日の開催であるにもかかわらず,本年度も,松江市内だけではなく安来市,大田市,倉吉市,米子市,境港市など広範囲にわたる地域から,大変多くの参加があった。また,外部講師を招き,教育と臨床心理学についての知見を広げる機会を増やした。大学ならではのこうしたプロジェクトに対する教育現場の継続的なニーズを実感している。 
プロジェクトの
実施状況

平成23年度は定例研究会を4回開催,講師を招いての特別講演会を2回開催し,延べ372名の参加があった。それぞれの開催日,内容,参加人数については以下の通りである。


 ・第1回(5月23日):高校2年女子生徒事例(不登校)
【参加者46名】

 ・第2回(6月27日):高校女子生徒の事例(問題行動)
【参加者45名】

 ・第3回(10月24日):中学校男子生徒の事例(子ども理解)
【参加者45名】

 ・第4回(11月28日):中学校男子生徒の事例(不登校)
【参加者36名】

・第1回特別講演会(7月16日):松江商工会議所
「カウンセリングにおける母性と父性~河合隼雄先生の団交ビデオを通して」


講師:川嵜克哲氏(学習院大学教授)
【参加者85名】

 

・第2回特別講演会(2月11日):テクノアークしまね
「子どもの「有能性」と「生命性」を育てるために~教師と臨床心理士の立場から」


講師:桑原知子氏(京都大学教授)
【参加者115名】


 教員からは,例年同様,日常の学校現場での検討内容とは異なる視点,方向性に触れる研究会であるとの感想が聞かれた。一事例に2時間という長い時間をかけて検討を行う方式は,多忙を極める学校現場では,なかなか実施することが難しく,ゆっくりと多角的な検討を行うことが出来る貴重な場となっている。本研究会が継続して行われることへの期待や要望も大きい。
 また,大学院生・学部生の参加も認めており,学校現場での実際の事例に触れ,リアルな教師像をイメージしながら自分に引きつけて教育・臨床を改めて感じ取る機会を提供する場となっている。
 そして今年度も,本プロジェクト経費による特別講演会を2回企画した。特別研修会は休日に設定しているため,学校関係者,臨床心理士のみならず,今年度は医療関係者の参加も多数見られた。心理臨床学における先鋭的な研究に触れられる本講演会に対しては,教育のみならず医療現場からも多くのニーズがあったといえる。

研究組織
所属・職 氏名 専門分野
心理・発達臨床講座
教 授
岩宮 恵子 臨床心理学
准教授 三宅 理子 臨床心理学
附属教育支援センター講師 高見 友理 臨床心理学
特任講師 三鴨 朋子 臨床心理学
特任講師 田中 美樹 臨床心理学
特任講師 高野 由美子 臨床心理学
特任講師 草野 知子 臨床心理学
本プロジェクトにより期待される効果
(成果の公表方法を含む)

◇上述のように,毎回,多くの現場教員の参加を得ることができ,学校教育現場に対して具体的な問題解決の手がかりを与える場となった。

◇また具体的な事例の検討を通しての研究会であるため,明日からの教育実践に活かせる何らかの知見を具体的に提供することができ,学部の地域貢献,教育現場との協同についての有効な実践例を示す結果となった。

◇同時に大学生・大学院生にとって実践性の高い専門的教育内容を提供する機会になった。

 

◆「教育臨床研究会」の案内を印刷し,近隣市町村教育現場(松江 市,出雲市,安来市,米子市を中心とした幼,小,中,高,養護 学校)に広報した。その結果,毎年多数の参加者を得るという成 果につながっている。

 

◆また地域連携のプロジェクトによる「オープンキャンパス用の学部活動広報」の一環として,本プロジェクトの成果を学部ホームページ上に既に公開している。